市民ダイアログ2021

市民ダイアログ(横浜市)

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、自動運転に対する社会的受容性の醸成を目的とした取組として、神奈川県横浜市で「市民ダイアログ」を実施しました。

1.開催趣旨

市民ダイアログは、一般市民・地方自治体関係者・交通関係事業者等との対話及びその発信を通じて、自動運転に対する過信・不信の双方を払拭し、自動運転に対する正しい理解を促していくことを狙いとしています。2018年度に第1回として香川県の小豆島で、第2回(2019年度)に長野県伊那市で、第3回(2020年度)は群馬県前橋市を対象として開催しました。
今年度の第1回目は、神奈川県横浜市を対象に選定・開催しました。選定の背景は以下の通りです。

産学官連携、及び市民と一体となった取り組みからの学び
今回題材として取り上げた同市金沢区富岡地区での乗合移動サービス「とみおかーと」の取り組みをはじめ、産学官での強力かつ長期間にわたる連携のもと、市民との丁寧で綿密な対話を軸に、地域に最適なモビリティサービスを展開・推進しており、同市における取り組みでの工夫や教訓を、公民連携のベストプラクティスとして、参考にする。

2.全体の概要

◆ 日時 2021年6月10日(木) 13:00~14:30

◆ テーマ 横浜での取組から考える都市郊外の移動 ~自動運転の社会実装に向けて

◆ 実施形式 オンラインミーティング(登壇者は都内の施設に集結/オンライン視聴者数:384名)

◆ 司会
岩貞るみこ氏(SIP自動運転 推進委員会構成員/モータージャーナリスト)

◆ ファシリテータ
清水和夫氏(SIP自動運転 推進委員会構成員/国際モータージャーナリスト)

◆ 登壇者
中村文彦氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授)
勝俣英樹氏(横浜市役所 道路局 計画調整部 企画課 担当課長)
光田麻乃氏(横浜市役所 都市整備局 企画部 企画課 担当課長)
有吉 亮氏(横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 特任准教授)
菊田知展氏(京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部 開発統括部 課長)

◆ 当日のプログラム

開 会
13:00 開会挨拶 岩貞るみこ氏(SIP自動運転・推進委員会構成員 モータージャーナリスト)
13:05 基調講演 テーマ:SIP自動運転の取り組み紹介
清水和夫氏(SIP自動運転・推進委員会構成員 国際モータージャーナリスト)
13:10 基調講演 テーマ:都市郊外でのこれからの移動支援に向けて
中村文彦氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授)
13:30 基調講演 テーマ:横浜市の郊外部における地域交通の取組
勝俣英樹氏(横浜市役所 道路局 計画調整部 企画課 担当課長)
13:43 パネルディスカッションと
Q&A
開会アナウンス
岩貞るみこ氏
13:45 イントロ:とみおかーとでの取組みと市民参加(による共創)
有吉 亮氏(横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 特任准教授)
菊田知展氏(京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部 開発統括部 課長)
13:50

テーマ:住み続けたい郊外とそのための移動とは~市民との共創型課題解決

<パネリスト>
中村文彦氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任教授)
勝俣英樹氏(横浜市役所 道路局 計画調整部 企画課 担当課長)
光田麻乃氏(横浜市役所 都市整備局 企画部 企画課 担当課長)
有吉 亮氏(横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 特任准教授)
菊田知展氏(京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部 開発統括部 課長)

<モデレーター>
清水和夫氏
14:25 閉会挨拶 グラレコ紹介&閉会アナウンス
岩貞るみこ氏
閉 会

3.パネルディスカッション概要

Q:
Work from Homeの普及、買い物、物流などの各面で、ライフスタイルに大きな変化があった1年だった。行政としてモビリティや様々な政策を立案する際に考えることは。
A:
これまで交通そのものを考える省庁や政策はあったものの、MaaSという概念が登場し、人々の生活を先に想像・分析し、これに合った形にはどうしたら良いかを考える必要が生じている。今回の「とみおかーと」の取り組みでは、横浜国立大学がアンケートを実施したり、アプリを通じて移動ルートの希望を把握したりする中で、様々な「真のニーズ」が見えてきた。当初は「坂道の上り下りがつらい」といったニーズに焦点を当てていたが、「本当はこういうところに行きたい」「子供の送迎に『とみおかーと』を活用したい」といった生の声を聞くことができた。(交通や都市整備の行政は)実際の人々の生活や幸せにつながる交通サービスの在り方を考えることなのだということを学ばせて頂いた。
Q:
交通事業者として、バスなどは未だ大量輸送の発想から脱却し切れていない面もあると思う。大量輸送の時代から、今後違った価値創出・差別化を行うためにはどうすればよいと考えるか。
A:
従来の大量輸送時代には、鉄道・バス等をそれぞれ単体で動かしていても上手く回っていたが、人口減少・高齢化等の課題に直面する今後は、顧客が感じている不便、地域の課題などを捉えて解決していくことが必要だと考えている。横浜南部での本件取り組みも、そのような位置づけのもの。地域の住民・事業者と一緒に地域沿線の魅力を上げ、地域を活性化していくという考え方で取り組んでいる。
Q:
様々な価値観を持った人が一つの場所に集まることで、コミュニティが出来上がる。人々が幸せを感じる瞬間は、人々の集まる場にあり、そのためにモビリティが存在するという面もある。横浜でも、様々な人が集まる場を提供すれば、そうしたコミュニティが自然発生的に生じるということもあるかと思うが、如何か。
A:
この20年横浜に住んで思うのは、住民の意識が高い。ゴミ分別もすぐに浸透するし、交通課題に関するNPOが数多くあり、かつアクティブな方々が多い。こうした素地があるため、きっかけがあれば様々な動きが生じやすい。一方、高齢化や公共交通の削減などで、もう一歩(交通手段や支援)があれば動きやすい(が現状ではなかなか外出できない)という場面も見られる。その意味では、「とみおかーと」等の取組で、引っ込み思案になりかかっていた人々の外出が後押しされるというタイミングだと思う。さらに言えば、その乗り物自体が面白いということが、さらに外出のきっかけにもなる。乗り物は手段であるが、惹きつけの効果も持ちうる。
A:
「とみおかーと」は、高齢者の短距離移動がメインの用途。ただ、「とみおかーと」を待っている親子連れが高齢者を見かけると遠慮して譲ってしまうような場面も見られる。本来は誰でも気軽に利用してもらえる乗り物を目指すべき。この点、どのように仕掛けるかを考えると、乗り物自体に興味を持ってもらう活動が必要と考えている。カート自体が面白い形をしていて、停車中でもちょっとした「場」として活用することができるし、電気も取り出せるように改良してある。今まで乗り物としては無関心だった人々にも興味を持ってもらい、関わる層を多様にしていくことが重要。そうした場・活動の創出と、そこに赴くための移動とが循環するような、トータルの戦略が必要だと考えている。

【まとめ】
規制官庁側でも、規制緩和をしながら社会イノベーションをしようという動きが広がっている。横浜ならではの面白いクルマに引き付けられ、多くの人が共感するということもあり得る。茨城県境町では、MaaS車両をうまく走らせるために違法駐車をやめようという機運が生まれた。また、豪アーミデールでのレベル4走行では、ロータリーで自動運転車が5分程度動けずに停車していてもクラクション一つ鳴らないなど、周囲の理解や支援がある。また、Walkable(歩く)という点については、都内でも歩きやすい道と歩きづらい道がある。自転車道の整備の前に、歩きやすい道の整備も重要と考えている。

オンライン視聴者とのQ&Aセッション

Q:
真の市民のニーズをどう汲み取るか、難しさはどのような点か。
A:
あるサービスが「あったらいいね」という程度で「ニーズ有り」と認識しないよう、注意が必要。市民にニーズを問うアンケートを選択式で行った場合、あるサービスが「あったらいいね」(あれば場合により使うかもしれない)という意識で○を付けられ、そのサービスを「需要あり」と判断して実行してしまうが、蓋を開けると乗ってもらえないという事例がよくある。市民の方に真のニーズを発信していただくことが実は難しいと日々感じている。
Q:
市民がすべきことは何か。
A:
生活の中で何らかの外出欲求(買い物、病院等)を満たしたいときに、そのために移動が必要なのか、移動以外の方法によっても解決可能なものなのかについて、よく考えていただきたい。
A:
現状どのように困っているのか、実体験に基づいて考えて議論に参加していただいたり、実証実験に対してもお付き合いいただいたりして、どうしたらより良いものになるかを考える議論に参加してほしい。
Q:
他公共交通機関とのすみ分けや連携はどのようにしたら良いか。既存タクシー会社のライバルになってしまうのではないか。
A:
「とみおかーと」は、そもそも既存の公共交通を補完するものという位置付け。ゆくゆくは機能がバッティングする場面もあるかもしれないが、その時には地域全体で考えていく。横国大と一緒に地域ごとの需要等まで検討しながら取り組んでおり、バス・タクシーとは上手く共存しながらやっていく。
Q:
マネタイズ、収益化・黒字化の方策についてどう考えるか。
A:
黒字化とは何かという点がある。地域のなかのシステムに要する費用が、最終的に何らかの形で賄えれば良い。一般には、車両を購入して代金を支払い、運転手の給与を支払う等々の費用を運賃で賄うが、その賄い方は何通りかある。重要なことは、その乗り物によって地域が元気になること、地域の方もメリットを感じること(開発利益の還元)。広告等も含めて可能な手段で資金を投じ、乗り物の運行が回っていくことが必要。横浜は比較的人口密度が高いため実現可能性は高いと思われるが、いずれにせよ、ある程度の人数が利用してくれること、地域の産業・医療等が乗り物を支えてくれることが第一段階となる。
Q:
環境負荷等を考慮し、公共交通機関の充実化により、全年齢層の移動を効率化し、乗用車減に繋げるという構想は、自動運転の構想を含めて横浜市にあるか。
A:
ご指摘の点についてビジョンを描いている段階にはない。あらゆる手段で移動なり目的を達成することについては横浜市としても取り組まなければならない。脱炭素の課題、交通の課題、まちづくりの課題、コミュニティづくりなどすべてが重なることで、ご質問の趣旨に沿ってくるのではないか。

4.シンポジウムの様子

  • 【実施風景】

  • 【グラフィックレコーディング】